No6. 国債の日銀引受けの暴論
   インフレ待望論の麻薬
      
                        99. 2.10  藤島公平

 最近、国会でも新聞などでも、国債の日銀引受けのことがよく論議されている。

 国債は本来、国が民間から借金して財政資金にあてるための確定利子付きの債券であったと理解している。それは従来、市中銀行や証券会社を通して、一般投資家や生損保などの機関投資家がこれを買い取るかたちで資金が国に集められる仕組みであったと理解している。

 ところがこれをお札の大元締めである日銀が買い取るというのである。その資金はどこからくるのか。従来の方式であれば民間から余剰資金や運用資金を吸い上げて財政に廻すということであったが、日銀が買い取るとなると、その資金は日銀が自らが発行するお札で買うしかないはずだ。単にお札の乱発行につながるのは誰の目にも明らかである。
 「財政法」では、このような危険を防止するために国債の日銀引受けには法的な歯止めがかけられている。

 ところが今なぜこのようなことが議論されているのか。
 それは一方でデフレ経済からインフレ経済に無理にでももっていきたいという思惑と、他方ではインフレの中でも金利が上がらない状況を維持したいという思惑からでていると思われる。

 ではなぜ経済のインフレ化が必要なのか。
 ある人はいう「インフレ傾向になれば、価格の先高感から、貯蓄になっていた資金が一斉に消費に廻るのではないか」 またある人はいう「インフレ経済は価格の高騰をもたらす一方で、債務の目減り現象も生じさせ債務の返済を楽にさせるのではないか」。
 これらの論は、現在の不況の原因が、消費を冷え込ませた国民負担の増加と、庶民の将来設計への不安にあるのに、その解決には全く目が向いていない議論である。しかし今回はそのことは置いておくとしても「インフレ待望論」には危険な落し穴がある。

 そもそもインフレーションを語る場合、高度成長時期にみられた「経済インフレ」現象と戦後すぐにみられたという紙幣価値下落による「紙幣インフレ」とは大きく違うということを念頭に置くべきである。
 「経済インフレ」の場合は経済が拡大傾向にあるなかで、経済活動の量に追いつける量の紙幣の発行を市場が求めて、結果としての価格の高騰であった。しかしその時期、庶民の給与収入も年々上がるということも伴っていたし、したがって法人税、所得税などの税収の伸びにも繋がり、歳入も増えるという結果もともなっていた。従って多くの人々にとっては(物価の上昇と収入の上昇のイタチごっこのイラダチはあったかもしれないが)生活の向上の実感を感じられた時期でもあった。

 ところが「紙幣インフレ」の場合は、「国に金がないからまずお札をすれ」の論理である。戦後の日本やドイツで見られ、またソ連崩壊後にも見られた。その結果一晩で価格が、というよりも紙幣の価値が何分の一にもなるために、商品の価格が何倍にも高騰するといった現象がおこる。しかも経済活動の活性化とは別の要因で起こる為に、庶民の収入は一向に増えず、ただ毎日手持ちの金が、形を変えずに価値だけがどんどん下がり、貧困のみが世間を覆うことになる。
 しかも昨今のような金融ビッグバーンのなかでは、円にしがみつかずともドルやユーロに換金し、資産の温存をはかることを人々が知ったなかでは、加速度的に円の価値が減少するのは目に見えている。世界的にも日本の円は敬遠され極端な円安にみまわれるだろう。最近の東南アジアの通貨危機を日本で再現することになる。

 このような「紙幣インフレ」の怖さを知っていながらもインフレを待望する論者は、目先の困難を当面切り抜ける為のカンフル注射、というよりも麻薬に走って現状から逃避したい亡者としか私には理解できない。
 目先の困難とは、金融機関や大手ゼネコンなどの債務超過状況が大きな困難の一つである。しかしこれはバブル時期に経営方針を誤り資産転がしに走ったツケであり、それを庶民を貧困のどん底に落とすことでその困難から抜け出そうという根性がそもそも許せない。バブルの経営方針に関わった経営陣や政治家こそ自らの私財をなげうって責任をとって身を引くべきである。
 もう一つの困難は消費の低迷である。しかしそれをインフレ刺激で貯蓄を消費に廻らせようというのがそもそも無理がある。確かに一時的には「期待」する効果があらわれるかも知れないが、結局極端な通貨安(円安)の中で産業はますます冷え込み、消費へまわすべき収入源を失った失業者を多く出すことになる。

 日本という国がいま本当に大変なバクチ=負けることは分かりきったバクチ、に手を出そうとしている。もしこんなバクチに政府が手を出した場合は、こんな政府は引き下がってもらうか、さもなくば中小企業経営者や個人は自社や個人の資産保全を、自分の力でやる方策を準備しなければならない。そうでなければ、アッという間にとんでもないウズに飲みこまれてつぶされてしまうだろう。
                                    99. 2.10
戻る