No25. 中小企業における
キャッシュフロー計算書の活用
2000.2.25 藤島公平
1.いまなぜキャッシュフロー経営と盛んに言われるのか
昔から資金繰り表での資金計画はされていたはずで、今になって急に資金計画の考え方が変わった訳ではない。
ではなぜ騒がれるのか。その原因はバブル時代への反省にある。つまり資産や資本を含みを込みで評価していたことに対する反省である。
何も具体的に利益を生みださない、従って現実にゼニを生まない資産や資本を、先高読みで高く評価してきたことへの反省から元の様にキャッシュ重視に変わっただけである。
結局、企業運営とはゼニ(現預金…将来的には電子マネーも含まれる)の動きが重要な部分を占めるということの原則に立ち返っただけであり、即時決済手段としてのゼニが特に不況期には重要視され、企業の安定度を計る指標になるということに気がついたのである。
2.キャッシュフロー表の作成方法
直接法...実際収支表を作成(資金繰り実績の累計又は月計表) 現預金の入りと出を事実に基づいて作成するのでキャッシュ残高を正確に把握できる。それに予定表も作成しやすい。しかしキャッシュの増減の原因の把握がしにくい。
間接法...財務諸表から作成。二期間の財務諸表の比較から作成する方法。キャッシュ増減の原因を分析する大事な表である。しかし今後のキャッシュ増加計画書(予定表)を作成するにはかなり難しい作業となる。そして粉飾があった場合にこの表だけではその場所が特定しにくい。
原因別区分図...キャッシュ増減を分野別に表示し、増減の原因とその改善のポイントを分かり易く表示する。
資金流動図.....年間レベルでの資金の流れを流動資金、固定資金、損益資金と区分して表示することで資金流動のイメージをつかむ。
計算書例略
3.キャッシュフロー表作成の留意点
・設備投資としての設備収支と本来の投資としての他社株式等の保持と投機としての株式等の収支(財務収支)は区別にすべき。
・現預金の粉飾は全体の結果を誤らせるので、現実との照合が絶対に必要。
・営業収支と設備収支を合わせて事業収支、投資収支と財務収支を合わせて事業外収支と区分すると分かりやすい。
・固定性預金(担保性預金)は財務収支(長期の貸付金に相当)に含めるべきである。
・ 取引先や子会社への長期貸付金は投資活動にいれるべきである。
4.キャシュフロー表(原因別区分図)から見えてくるもの
営業収支・・・本業の収益・費用面での調達と運用 事業の根幹となる部分
設備収支・・・本業の設備面での調達(減価償却)と運用 設備の稼動状況を直接には反映しないが設備資金の回収状況を明示する。
投資収支・・・社外への事業展開のための運用 関連会社などとの関係を表す。中小企業では親会社との関係を表すことがある程度か
財務収支・・・資金調達の状況(財テクも含めて)効率的な資金調達運用がなされているかはここで分かる。
資本収支・・・資本調達と運用(利益の処分も含めて)利益処分、増資の状況がわかる
その他・・・・資産価値の無いものの調達(引当金)と運用(引当金取り崩し、繰延資産)
大区分・・・営業収支と設備収支をもって事業収支とし、投資収支と財務収支、資本収支をもって事業外収支とすると分かり易いか。
5.キャッシュフロー表と経常収支表の違い
経常収支表はある期間内に現預金をいくら調達したかを計る物差しである。つまり借入金の返済財源や設備の投資資金となるべき源泉の調達力の視点でみるもの。キャッシュフローの営業収支の面を重視した考え方に基づいている。
6.キャッシュフロー計算書の特徴
・資金の調達の源泉とその運用の様子が貸借対照表以上に明確になる。
・粉飾決算や含み決算が意味をなさなくなる 売掛金−売上の架空計上はキャッシュ計算書では結果として排除される。ただし粉飾の正確な事実までは確認できない。
損益計算書が黒字で、営業キャッシュ減少の場合で特段の理由が明らかでない場合は、粉飾の疑いがある。その場合は収益と売掛金の精査が必要。逆に損益が赤字で営業キャッシュ増加の場合で特段の理由が明らかでない場合は費用と買掛・未払金の精査が必要となる。
・しかし黒字決算といえどもゼニ足らずの場合もあるが、それは自己資金による設備投資か借入金の返済などの形で明確に出てくるはずである。
7.キャッシュフロー計算書による対処
・起業時は事業外収支余剰が事業収支を補い、安定期は事業収支余剰が事業外収支を賄うのが当然の姿であるが、安定期にありながらそれが逆転している場合には大幅な改善が必要となる。
・資金繰り悪化の原因が事業収支にあるのか、事業外収支にあるのかによって対処が変わる
○事業収支にある場合・・・売上の拡大計画、コスト削減計画、不良設備の売却処分(付随費用の圧縮)、在庫の圧縮処分(値切り販売をしてでも現預金に変える)、支払債務の長期債務化の方法
コスト削減は安易にリストラに走るべきでない。中小企業にとっては従業員の労働意欲の低下などの結果となって命取りになりかねない。
リストラよりも賃金体系(中小企業では整備されていないところが多い)の見直しによる賃下げ(残業の時間制限、賞与のカット、基本給の一律カットなど)を全員に理解させて平等に痛みを分け合うかたちがよい。
その前提には、財務内容をある程度開示し、役員報酬は勿論、諸経費の削減計画を進めることを合わせてやることを宣言することが必要である。
○事業外収支にある場合・・・借入金の整理・長期化、増資、社債の発行、関連会社株式等の処分、投機的有価証券等の処分、節税対策の方法
中小企業においては日常的に役員については役員報酬から強制積立預金をして、非常時の増資に使うよう指導するのが望ましい。また投機的運用は控えるよう指導すべき。
○適正なキャシュ残高の最低額の基準は?
現金決済業種・・事業外収支の支出金相当額の2カ月分程度が最低必要額
根拠・・事業収支で予定外の赤字で、資金不足が生じても最低1カ月は対応できる額
現金外決済業種・・事業収支、事業外収支の支出金相当額の1カ月程度が最低必要額
根拠・・売掛債権回収の予定外の遅れの影響があっても最低1カ月は対応できる額
最低額に近づいたら、勿論、融資申し込み等の手当や収支改善の手当を早急に打つ必要がある。
8.金融機関等にはキャッシュフロー改善計画書こそ大事
ここで大事なことは上述のようなキャッシュフロー改善の為の各種の手当、処分によって一時的に赤字決算になることが予想されるが、現在の金融機関は 損益計算上の赤字よりもキャッシュ不足による返済不能の可能性の方に神経がいっていることに注意されたい。しかも処分すべきものは担保価値としては現在では認められていないもの(例えば在庫や有価証券など)ばかりであることにも注目すべきである。
キャッシュフロー改善計画書では、目標年度内にキャッシュ余剰をいくらまで押し上げるという目標値を示し、その為に事業活動で毎年いくらのキャッシュ余剰を稼ぎだし、事業外活動では余分資産や不良資産を処分し、財務支出をいかに圧縮して毎年いくらのキャッシュ余剰を稼ぎ出すといった具合である。
そして目標年度内に企業の体質をスリムにして、健全な財務体質にして、その後の事業の発展の土台をつくることが最大の目標である。
9.経営コンサルタントとしてキャッシュフローをどう活用するか
経営コンサルタントは企業の財務診断において、企業の正確な財務内容を知り、正確な指導 ができることである。その為には提示された数年分の決算書や数ヶ月分の試算表から速やかに キャッシュフロー表を作成できなければならない。
そして決算書や試算表では見えなかった実態との乖離をどう実態に近づけて示して、経営者等に理解させるかが第一歩である。
中小企業の経営者は資金繰りについては感覚としてはつかんでいるが、正確な資金の源泉について理解していることは少ない。資金に余裕があれば、それが無理な融資によるものであっても安心し、資金が足りなければ、資金の回収の遅れであってそれを改善すれば足るにもかかわらず、心配で眠れないといったことがしばしばである。
だからコンサルは実態を知った後には、どこに病気の原因があるかを示し、そこの改善の話にすすめ先での死に至る病にならないうちに改善の手を打つことを真剣に勧めるべきである。その武器になるのがキヤッシュフロー表である。
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