No29.会計「ビックバン」の導入の背景と課題

                          板平憲洋      2001. 4.18

 日本では、戦争で失った企業の資本を再び証券市場から調達するために、アメリカ式会計制度が導入され日本版企業会計原則が制定された。投資家が公表された財務諸表を見て自己責任で投資をしていく証券取引法にもとづく会計制度ができあがり、戦前からあった債権者保護を主眼とした商法の会計に関する規則も改廃されて調整がはかられ、これに、国の税務会計が加わって、いわゆるトライアングル体制の会計制度が今日までつづいてきた。

 ところが、1990年代に入って日本経済のバブル的異常状態がはじけ、この会計制度の弱点が一挙に明るみにでてきた。日本の金融機関が大きく破綻し、それに関連して多くの不動産会社も経営危機に直面している。ゼネコンなども大きな不良債権を抱えて、いつ倒産してもおかしくないのが現状である。ところが、現行の会計基準でつくられた公開の財務諸表を見ても、これらの企業の実態、危機的状況が操作・隠蔽されて、充分とらえられないという事態が生じてきた。

 本来なら、そうした会計の弱点を監査役による会計監査や公認会計士による外部監査制度が補わなければならなかった。しかし実際にはこれらの監査制度さえも有効に機能しなかった。そのような事態を受け、投資家、勤労者、労働組合、消費者の信頼を取り戻すために、会計基準をどう改革するかが問題となってきた。

 一方、海外の事情も背景にある。特にアメリカを中心とする海外の金融機関あるいは証券の投資家・投資機関は、規模の大きい日本の資本市場を狙い、グローバルスタンダードに基づいた経済・金融・証券の制度を要求し、日本の資本市場を世界に開放させるという思惑もはたらいている。そうした背景から「透明度の高い」財務諸表の開示を要求されてきたわけである。

 一方で25,6年前から世界の主要な資本主義国の職業会計士等が集まる国際会計基準委員会(IASC)という民間の組織が、国際的に比較可能な財務諸表の作成基準の制定作業をはじめていた。この委員会は民間の団体によって設立されたため、作成された基準は強制力をもたなかったが、1987年その諮問委員会にアメリカのSEC(証券取引委員会)、日本の大蔵省証券局など各国政府代表をメンバーとするIOSCO(証券監督者国際機構)が加わり、国際会計基準委員会を各国が制度的に受け容れる素地ができてきた。


 そして1998年12月までに骨格となる中核部分(コアスタンダード)のほとんどが出来上がり、現在IOSCOが国際会計基準として承認するかどうかの検討作業に入っている。 新会計基準のポイントは、大まかに@新連結決算制度、Aキャッシュ・フロー会計、B時価主義会計(減損会計)、C退職給付会計、D税効果会計の5つに分類される。

 ただ注意しなければならないのはこの国際会計基準(グローバルスタンダード)と日本版新会計基準とは幾分違っているということである。地球規模での普及を目指す世界統一基準である国際会計基準の制定作業と、日本を含め各国の母国基準を国際会計基準に調和させようとする作業が同時に進行しているのだ。現段階では日本の新会計基準と国際会計基準との間には多少の差があり、減損会計や、投資不動産の扱いがその代表例である。


@新連結決算制度について

 これまでは実質的な支配関係があるにも関わらず、持株比率を調整して「連結外し」が行われていたことや、子会社を使った「損失飛ばし」や、「負債隠し」といった問題が指摘され、企業集団の実態がわが国の連結財務諸表から把握できないことについて、内外からの批判があった。従来は公表される会計は、単独会社のものが主で、子会社・関連会社との連結財務諸表はあくまで補足情報として公表されるのみだった。新会計基準では連結財務諸表を主として、個別の財務諸表を従とする。

その上、連結範囲も拡大され従来は連結範囲判断基準に持株基準(子会社50%以上、関連会社20%以上)のみを適用していたが、新基準では「支配力基準」、「影響力基準」が追加されることになった。この新連結決算制度の効果は、業績の推移によって子会社や関連会社の範囲を恣意的に変えることを難しくなり、連結はずし、損失飛ばし、負債隠しがしにくくなり、グループの経営活動の全体が見渡しやすくなり、投資家が投資への判断をしやすくなったことがあげられる。しかし問題点もある。

 第一に今まで以上に子会社・関連会社の範囲が広がるため、子会社・関連会社の合理化が進められる。

 第二に個別財務諸表を連結することにより、グループの経営活動を構成する個々の要素や収益構造についての情報は分かりにくくなることにもなる。そのため財務諸表では捉えられない企業グループの実態を総体として捉えるための情報、例えば、事業の種類別・所在地別に、規模・利益貢献度・成長傾向を示した分割情報(セグメント情報)が必要となってくる。


Aキャッシュフロー会計について

 これまでの問題点としては、従来の資金収支表では「資金」の範囲を「現金および市場性のある一時所有の有価証券」と幅広く定めていたため、企業の資金管理活動の実態が分かりづらいことが指摘されていた。また「一時所有」か否かの判断に経営者の恣意が介在する余地があるのも問題とされていた。そこで新基準では、まずキャッシュフロー計算書の資金の範囲を「現金および現金同等物」に限定した。資金収支表では、資金の流れを「事業活動に伴う収支」と「資金調達活動に伴う収支」の2つに区分して表示するのに対し、キャッシュ・フロー計算書では、「営業活動」、「投資活動」、「財務活動」の3つに区分して表示することとしている。

 また、新会計基準では多くの局面で時価会計が取り入れられている(有価証券の時価評価、売上債権の時価評価、販売商品の時価評価、退職給付会計も負債の時価評価だと言われる)ため、流動資産の裏付けを伴わない損益が計上され、決算で発表される損益と資金繰りとはますますかけ離れたものとなる恐れがある。キャッシュ・フロー会計はこうした新会計基準の弱点を補い、今まで以上に益々重要な役割を果たすことになる。

 ただし問題点もある。取引先への影響として売上先からは売上債権の回収を早め、買入先には買入債務の支払を遅らせようとする締め付けが起こる可能性がある。また人件費や設備投資を抑制しようとする動きに進まないとも限らない。なぜならキャッシュ・フロー計算書では人件費支出の総額が明示されるため、内部蓄積を無視して人件費支出を抑え、営業キャッシュフロー、純キャッシュフローを増やそうという衝動が強く働きかねないからだ。また現金等を増やすためには設備投資もできるだけ抑制した方がよいので、全体的に縮み志向になっていく傾向は免れない。


B時価主義会計と時価評価について

 これまでの取得原価表示ルールの下では、昨今のように市場環境が不安定になっている状況下で財産実際価値の変動が大きくなると市場価値との乖離は益々顕著になってしまい、企業の真の財産状況が表示されないことが問題であった。

 そこで、新基準の中に「金融商品に係る会計基準」が整備された際、金融商品の一部を時価で評価するルールが盛り込まれたのだ。時価評価の対象は、売買目的で保有している有価証券運用目的の金銭信託、デリバティブ取引によって生じる正味の債権や債務などとなっている。

 この新基準では、企業の資本調達の巧拙が企業の業績に大きく影響を与える時代になってくるということである。そして時価会計は投資家に企業の新の財産状態を開示する役割をもってくる。
 ただし、売買目的有価証券を時価評価の必要のない「その他有価証券」に振替えることで、当期損益計上を回避したり、逆に「その他有価証券」や満期保有債権を売買目的有価証券に振替えることで益出し、損出しも可能となり、意図的な利益操作の余地があることも指摘しておく必要がある。


C退職給付会計について

 これまでは、将来にわたる労働債務を認識するための統一ルールがなかった。例えば退職一時金と企業年金はこれまで会計上の扱いが異なっていたため債務の実態がつかみにくいだけでなく、企業間の相互比較も充分にできなかったという実態がある。

 また、労働債務の実態を計算する包括的なルールが整備されてなかったということも問題であった。労働債務は将来にわたって発生する債務の総額から、どんな形であれ、その債務を埋め合わせるために積み立てている資産等があれば、それを差し引いた純額が本当の債務となるが、これを算出するためのルールが充分整備されていなかったのである。

 また、企業年金はこれまで、別枠でオフバランスにしてきた。そのため毎年企業が企業年金として、年金基金に振り込む部分だけを損益計算書に費用として載せるのみで、現在企業年金がどれだけあるのかは貸借対照表のどこにも示されなかった。しかしここ数年続いた金利ゼロ政策のもとで年金基金が運用難に陥り、さらに従業員の減少により年金基金収入そのものも減少し、基金が枯渇して解散する事態も生じている。

 そこで新基準では退職給付会計を、「退職一時金」と「企業年金」の二つを、年金も退職一時金も勤労者の過去の労働提供に対する将来の給付であり、まとめて取り扱うことになった。これまで別々に処理していた退職一時金、厚生年金基金、適格退職年金に関する債務を一元的に捉えることになったのである。

 こうして算出された退職給付債務総額から現在バランスシートに載っている退職給与引当金、オフバランスになっている企業年金の総額を差し引く。これがプラスになっていれば資産になるが、マイナスの場合、不足額を積み立てなければならないということになる。

 この結果多くの企業が巨額の積立不足を抱えることになるので、積立不足の処理を15年で行うことを認めている。

 ただし問題点もある。退職一時金は現在、労働者全員が自己都合で退職した場合に必要な支給総額の40%を限度として引き当てることができることになっていた。しかしこの税法が改正され、この限度額を引き下げ、20%までとした。これで新会計基準と税法は全く逆の方向に向かって走ることになった。

 また、確定給付型年金から確定拠出型年金への移行が進んでいる。確定拠出型の場合でも企業年金なので企業が基金を積むが、企業と従業員との間に金融証券資本が組織する運営管理機関が入って、退職給付債権を従業員に運用させる。年金債権は転職の際も持ち越すことができるため、労働の流動化が進むのは必至と思われる。


D税効果会計ついて

 これまで、財務会計の目的が適正な業績評価・表示であるのに対し、税法は安定的な税収の確保を目的としており、会計上は認められる処理でも、税法上では認められない処理があり、会計上の利益と税法上の課税所得とが合理的に対応せず、ズレを生じてしまう。その結果、税金コストに不合理な期間的偏りがでていた。

 税効果会計では利益と課税所得とのズレ(一時差異)を調整し、法人税等の税金を費用として把握して、税金費用を期間配分する。例えば、当期において計上した貸倒引当金が、損金繰入限度額を超えている場合、超過分が課税所得に加算されるが、その加算された額に税率を掛けた分を企業会計上、「税金の前払い」と捉え、「繰延税金資産」として資産項目にあげるの一方、実際に払った法人税等から、その前払い分を差し引いた額を企業会計上の当期の法人税等として計上する。その一時差異が解消される(例えば、前述の貸倒引当金の損金繰入限度額超過分が認容された)年度においては、計上していた繰延税金資産を減らし、認容された損金に税率を掛けた額を当期の法人税等に加算して、その期の税金コストとして認識するのである。

 ただし、税効果会計は財務諸表上においてはズレにあたる税額を表示することによって、税額を減少させ、資産を増加させる効果があるが、納税当局に納付する税金額が減少するという意味ではないことに注意する必要がある。あくまで、課税所得計算は通常通り行うのである。

 新基準の効果としては、利益と課税所得のズレを調整し、税金コストの期間配分を行うことで、より適正な期間利益の算出に役立つという点である。

 しかし繰延税金資産を計上する場合、実際に納付する税額とは関わりなく資産が増加するが、当該処理を行えるのは当該処理を行った企業が将来充分な利益を発生させる可能性がある場合のみとされている点が要注意であり、その評価はだれがするのかが不明確な点でる。


おわりに

 そもそも新会計基準が導入されることになったのは、日本経済の歪みに原因があったとも言える。従来の会計基準の弱点を補うべく監査制度が機能しなければならなかったはずだ。そのことの反省を抜きにして会計基準のみを変えても、実効性はないし利害関係者の信頼も得られない。

 実際に新会計基準にも多くの逃げ道や不明瞭な点が残されており、監査制度に信頼が置けない状態では、真の目的である、信頼性のある財務諸表の作成という目的は果たせない。従って新会計基準においては、時価会計や税効果会計など適用面での、公正なる評価とそれを監査する技量が益々非常に重要になってくるのである。
                                       板平憲洋

参考資料 「Eコマースビジネス時代に対応する日本の会計基準」(東京教育情報センター)、「会計制度改革の卵」(税務経理協会)



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