No74.遠ざかる豊かな社会

                                               2005.12. 2

 最近の日本の経済状況と構造計算偽装で問題となっている建築業界について面白い論調がありましたので、転載させていただきます。以前にも転載したことのある
『経済コラムマガジン』http://www.japanweb.ne.jp/fortune/aqua_data/index.html
というところが配信している記事です。現在の回復景気に対する疑問や経済新聞の論調にいささかの不信を感じている自分としては参考になる論調と考え転載します。

◆遠ざかる豊かな社会

========================================================================
 ◇景気が良くなったというデマ
========================================================================

 本誌は04/9/27(第360号) 「豊かな社会ーー競争と共生」で、豊かな社会とはどのようなものか話をした。ちょうど一年ほど前である。この時には社会体制や経済体制を中心に話を進めた。結論として、「競争」というものは必要であり避けられないものであるが、「競争」だけでは「豊かな社会」は実現せず、どうしても「共生」という考えが必要になってくると述べた。

 前回のコラムで行ったもう一つの重要な指摘は、日本が「豊かな社会」から遠ざかっていることである。残念ながらこの一年で、ますますその傾向がはっきりしてきた。まず経済の状況が良くなっていない。政府・自民党は選挙用に都合の良い経済指標だけを取上げて、経済が良くなったと喧伝していた。そして多くの人々やマスコミは株価の上昇や日経新聞の論調に翻弄されている。

 名目GDPはほぼゼロ成長である。実質成長率がかろうじて小さなプラスになっているが、これは物価の下落が影響している。しかしこの物価の下落は、IT関連機器の性能が向上していることなどを価格に換算しているからである。つまり経済全体のパイは、縮小傾向からせいぜいプラス・マイナスがゼロになった段階である。

 日本経済の縮小が止まった原因は、中国やアジア諸国の経済成長による外需の増加とそれに関連する設備投資と言われている。しかし筆者はこれだけではないと見ている。一般会計は緊縮と言ったスタンスを取っているが、特別会計の黒字幅がかなり小さくなっている。この結果、政府部門全体の経常収支は大きな赤字になっている。人々は、小泉構造改革政権が財政支出を削るケチケチ政権と誤解している。しかし特別会計を含めた一般政府部門の経常収支の赤字は、逆に大きくなっているのである。

 (中略)

========================================================================
 ◇下請けいじめの社会
========================================================================

 前段で述べたようにマクロ経済は良くなっていない。ただいわゆる「勝ち組」の景気の良さを、マスコミがさかんに取上げているから、世の中の人々がそのような気になっているだけだ。「勝ち組」でない人々は「自分達は縁がない」と白けてこのような報道を眺めている。明らかに所得の格差が増大している。テレビ番組も最近は「金持、セレブ」と「貧乏さん」といった両極端をテーマにしたものがいやに目立つ。

 実際のマクロ経済指標も良くないが、政府は悪いデータを出したがらなくなった印象を受ける。しかし公表されている数字を丹念に見ると、社会が確実に悪くなっていることを示すものが結構ある。経済苦を原因とした自殺者は一向に減っていない。自己破産の申請数も増えている。生活保護世帯数(10年前の60万から今日の100万)、生活保護受給者数も急増している。

 企業の従業員の有給休暇取得率がずっと下がっている。政府が時間単位の有給休暇の取得を提案しているほどである。構造改革で経済が良くなっていると小泉自民党は言っているが、日本の労働環境はますます悪化している。このような数字を見ていると、豊かな社会どころか、ますます日本の社会は荒れてきていることが実感される。だいたいデフレ経済下で構造改革を進めるなんて「頭」がおかしいのである。

 公正取引委員会による「下請けいじめ」の取締り件数が急増している。たしかに昨年4月の改正下請法施行で、業務委託などのサービス分野まで取り締まり範囲が増えたこともこれに影響している。しかし今日の経済の情勢では、「下請けいじめ」は当り前のことと言える。デフレ経済が続き、他に仕事がないのだから、下請けが元請けの無理難題を拒否することはできないのが今日の日本である。

 ちょうど構造欠陥マンション問題が起って世間の注目を浴びている。この問題は本誌が取上げている今日の日本の経済・社会の問題を凝縮している。まずどこに責任があるのかマスコミは迷走している。登場人物は、マンション販売会社、工事施工業者、設計事務所、構造計算設計事務所、構造計算ソフト販売業者、民間の検査機関そしてマンションの購入者である。マスコミは、マンションの購入者が被害者で、マンション販売会社を責めている。

 筆者の想像では、問題になっているマンション販売会社が、これまでもコスト削減を工事施工業者、設計事務所に要求してきた。ところがマンションブームが続いた結果、マンション用地の取得費用が段々増加してきた。しかしマンションの売出価格には値頃感があり、マンション販売会社としては販売価格を上げることができない。そこで工事施工業者、設計事務所といった下請けに一段のコスト削減を強いた。まさに「下請けいじめ」である。

 本来、景気が良く下請けに他の仕事があれば、断りたくなるほどのコスト削減要求である。そこで下請け業者がとうとう禁じ手であるマンションの構造計算書偽造まで走った次第と想われる。明確に法律違反したのは構造計算書を偽造した構造計算設計事務所である。しかし工事施工業者や設計事務所、そしてマンション販売会社も、今回の構造計算書偽造事件に無縁とは思われない。

 それにしてもイーホームズという民間の検査機関もおかしな存在である。だいたい筆者は、報酬を貰っている先を検査、監査、鑑定するという社会の仕組みに無理があると考えている。当然、報酬を払ってくれる依頼先に有利な結果を出す誘惑にかられる。建築物の検査機関だけでなく、会計監査法人、不動産鑑定士、格付機関なども同様のジレンマを抱えている。

 社会は、法律だけでなく参加者の「良心」とか「信用」というものを頼りに成立っている。これらがなくなった状態で、社会の全ての規範を法律で律するとなると、必要な法律は天文学的に膨大なものになる。とにかく今日の日本ではまともなことをやっていては、なかなか生き延びることが難しくなっている。生き延びるため、刑務所の塀の上を歩いているような人々が増えている。今回の事件では、関係者がたまたま刑務所側に落っこちたのである。



戻る