2008.12.23 藤島公平
今年、9月頃までは原油高騰のなかで、原油にかかわる業種の分野では「コスト高で利益がでない」とかの悩みがあった。しかし、少なくとも大企業においては不況の二文字は聞かれなかった。したがって、学生の就職戦線も大企業を中心に「団塊の世代」の穴埋めとして、学生側の売り手市場だともいわれていた。もちろん一部の企業では、国家的詐欺とも言えるアメリカのサブプライムローンのあおりで、主に金融機関を中心に不良な証券をつかまされていることに気着いて、その処理に汗を流していた。しかし、人員整理を急ぐほどの「不況」状態ではなかったように思う。
ところが、10月になって急にトヨタをかわきりに名門ともいえる大企業で派遣社員や期間工を中心にいきなり解雇や契約の中途解約などが出だした。さらには正社員の首切りにまで及ぼうとしている。しかも何百人、何千人単位である。
先日トヨタは、「世界的な金融不安による売上不振と円高によって今期の決算予想は赤字に転落する」と発表した。
しかし、トヨタをはじめ自動車産業やキャノン、ソニーなどの事務機械やパソコン、電化製品を製造する企業は、海外に生産拠点をもっており、そのことは円高などの為替の変動リスクを回避するための措置だったはずである。また世界的な金融不安といっても、いきなり3ヶ月程度で、連結営業利益が、前年度に過去最高だった2兆2700億円から一気に1500億円の赤字に転落するという判断をするのも過剰反応すぎるように思う。
私は、実はサブプライムローン問題などの影響で9月15日に経営破たんしたリーマン・ブラザーズに始まった金融システムの崩壊が根源にあると思う。
もともと、前述の企業は海外生産、海外販売を主としており、その利益は国内に還流すれば円高を誘引するとして、海外に為替、株式等の債権として滞留させていたし、運用もしていたはずである。つまり企業利益の大部分を海外に債権というかたちの資産として温存していたのではないか。
ところが、その資産がリーマンブラザーズの経営破綻を震源とする金融システムの崩壊的危機の中で、紙くず同然になってしまったのではないだろうか。つまり、日本企業が営々と築き上げてきた資産を、「盟友」のアメリカという国の国家的詐欺に等しい金融危機で奪い去られたのではないか。さらにいうなら、日本の資産がアメリカに奪われたのではないか。
どこかの政党が、「トヨタなど大企業は莫大な内部留保があるのだからそれを少し取り崩せば解雇しなくても済むではないか」という。それは至極当然な論理のようにみえる。ところが帳簿上は内部留保はあるかもしれないが、その内の多くが資産の裏づけを失ってしまったため、架空の内部留保になってしまっているというところに悲惨な実態があることを理解しないと事は前に進まないように思う。
経営陣は、営々として過去に積み上げてきた利益が紙くずになったという事実を認めると、資産管理という極めて経営者の責任に関る問題が露呈し、経営責任を問われかねないということで、当面、「円高」だの「売上不振」だのの理由を表に出さざるを得なくなっているのではないだろうか。
しかし、3月決算を控え、決算の内容が公開されれば、粉飾でない限りは、為替債権や有価証券の評価損というかたちで現れてしまう。そこで、大企業の経営者たちは、なんとしても資金の流出を止めたいという一心で、ヒステリックに人員削減に走っているのではないだろうか。
「日本の資産がアメリカに奪われた」と前述したが、原油高の時もそうであった。ガソリンのリットル当たり自動車の走行距離が伸びたわけでも、原油から取り出せるプラスチック原料の量や質が変わったわけでもないのに、1バーレル(約160g)が30ドル程度だったものが、僅か数ヶ月で150ドル近くまで高騰した。つまりリットル当たり元値に換算して20円程度だったガソリンを100円程度で買わされたことになり、車にガソリンを注ぐたびにリットル当たり80円のカンパを強制されていたことになる。そのカンパはどこにいったのか。それは儲けるところならどこにでも現れる「ヘッジファンド」の連中の懐に入ったのである。この時期、日本だけでも何兆円もの資産がこのような連中に奪われたのである。
このように、今の金融危機での出来事も、原油の高騰の出来事も、金融資本のシステムによる詐欺的な資産の強奪という本質に行き当たる。これが金融資本制度の真の姿である。
確かに金融システムは企業活動においては大変有効な役割ももっている。しかし、私の過去の本ページの76「はびこる『偽装経済』」や79「村上ファンド事件と会社法」の中でも述べたように、本質が通貨までも商品と考えることを基本とする金融資本制度の行き着くところは、儲ける為には手段は選ばない世界に入らざるをえないのである。もっというならば他のヘッジファンドに負けないためには手段を選んでいては成り立たないのである。
私の過去の本ページの3「投機と投資」のなかでも述べたが、このような「妖怪」であるヘッジファンドは世界的に規制されるべきである。先のG20の中でヨーロッパの国々を中心にヘッジファンドを国際的に規制する提案がなされたが、反対したのはアメリカのブッシュ大統領だけであったのは、象徴的である。 しかし、私は世界的にヘッジファンドの規制は当然であり、それが出来なければ資本制度そのものの崩壊に繋がり、結果は無秩序で無政府的な社会となることを私は恐れる。